響灘浮体式洋上風力発電計画の環境審査会
「風力発電が野鳥に与える影響を考える会北九州」Association to protect wild birds from wind power
的確な意見(鳥類への影響)が出された一方、
審査会委員とは思えない、問題意識が低い?意見も。
そして、安全上の懸念も......
北九州市若松沖響灘の白島(しらしま)に近接した浮体式洋上風力発電計画の環境アセス配慮書審査会が、本年(2025年)3月28日に行われました。1ヵ月半ほどかかって議事録が公開されましたので、私が関心を持っている個所を抜粋して紹介します。(引用:第59回北九州市環境審査会議事要旨より抜粋)
鳥類への影響を危惧する審査会委員の発言
● 前回の着床式の計画の場所からほとんど変わっておらず、白島で繁殖するオオミズナギドリ、 ミサゴ、冬場渡来するウ類へのバードストライクの危険性が全く低下していないのではないか。
● 風車が巨大になり、羽根の先端スピードは時速607キロから677キロになる。(鳥類にとってますます危険!)
● 建設候補地をもっと白島から離すことが、影響軽減に効果的だと思う。
● 配慮書にある年間300個体という数字は、昼間洋上に飛び立った後、餌場として、オオミズナギドリが洋上で生息する数だろう。今回の計画は白島のすぐ近くで建設する計画なので、白島に一番近い距離にあるところで、どれだけのオオミズナギドリが生息しているか、その数を根拠にしない限り、洋上での年間300個体という数は、バードストライクの確率を推定するにはおかしい。繁殖時期に白島に集まっている個体の最大数、そこをはっきりしない限り、この年間の衝突確率の出し方というのは納得いかない。実際、NEDOの調査では白島周辺には相当な数のオオミズナギドリの移動軌跡が出ているので、もっと数字は多くなるのではないか。バードストライク確率が年間1個体未満はそれでいいのか! 夜間に島に帰り、朝早く島を離れる鳥に対して、こういった衝突確率を使うことは適切ではない。
● 日本野鳥の会北九州支部による2021年の白島(男島)の調査で1,200巣の数が推計された。2,400~3,000羽の個体が利用していると判断できる。
● オオミズナギドリというのは巣に対する固着性が高いと言われており、バードストライクで多くの個体がいなくなっても、帰島行動を続ける可能性が高く、風車によって毎年数が減っていくことが心配される。
● 白島の男島の西側の岸壁はウミウやヒメウが多数越冬のために渡来する。(1978年実施の調査で推計26,100個体)。このウ類が今回の調査には全く入っていない。ウ類が朝方飛び出す際、通常は高い高度を飛ぶことはないが、気象条件次第では25メートル以上の飛行高度になることは考えられる。バードストライク防止のためには、夜間の生息状況を把握する必要がある。
● 今回は、白島を囲むように選定されているが、それについて、白島一帯が囲まれることによって自然の財産というものが何か変わってしまうようなことはないのか。候補地として、今実証機があるあたり(白島から5~6キロ沖)など、いくつか検討したのか。
事業者回答~お決まりの「今後の予測評価で」
● 事業実施想定区域は北九州市における洋上風力発電に対する行政の積極的な取り組みがある(北九州市の協力が得やすい)。風況のよさ、事業性、環境の配慮等踏まえて、事業実施可能な範囲として設定した。一方で、この白島は鳥獣保護区として指定されており、白島周辺のオオミズナギドリ等の貴重な鳥類の繁殖地として重要な区域であることは認識している。今後の環境アセスの手続きにおいては、適切な予測評価を行いまして、風車の配置等を検討した上で、事業計画を策定する。
● オオミズナギドリの300個体という根拠は、既存資料でNEDOが実証事業で風車を建てるところで実施した調査結果で、このときの年間のオオミズナギドリの分布図が、今回の事業区域に相当する場所には約300個体見られた数字を使った。今後さらに、現地の調査結果を踏まえた予測を行っていく。
● ミサゴ、オオミズナギドリ以外の鳥類についても、リスクの高い鳥が確認された場合は、評価の対象とする。
● 現在実証機のあるエリアは海域の中でも共同漁業権のない一般海域ということになる。つまり、このエリアは自由漁業のエリアで、この海域を使用しようと思うと、地先の漁協以外の日本全国、例えば北海道の漁業者がイカを獲りにくるということもあったりで、そういった方々の了解を取り付けながらしていくということになると、非常に壮大な作業になってしまう。一方で今回選定しているエリアは、共同漁業権というエリアを選定して、事業を計画し、共同漁業権ということで、利害関係者が明確である。(協議相手が多くなるのは面倒。協議する相手は少ないほうがいいと、言ってるようなもの)
鳥類への影響を軽視する?委員も~その発言
● バードストライクについては、この配慮書に出ている確率からすると、例えばミサゴだと10数年に1個体、それからオオミズナギドリだと3年に1個体です。そのくらいの確率というのは、個体数の減少とかそういうことを議論する数には当たらないのではないか。一般的に考えれば、ほとんど影響ないとか、無視できるというレベルになるのではないか。仮にこれが確率10倍になってもそれほどでもない。ビルのバードストライクの方がはるかに確率高いと聞いたことがある。また、重大な影響は無いとするその基準はどこにあるのか。
事業者回答~「重大な影響はない」
● 経産省から出されている発電所に係る環境影響評価の手引きなどによれば、重大な影響というのは、「環境保全措置を講じることで影響を回避低減が可能であると考えられる場合には、重大な影響としては取り扱わない」ということが明記されているので、今後、環境保全措置を検討していった場合、十分回避低減ができると我々は考えており、重大な影響はないという判断をした。
「洋上風車が倒壊したら」の委員の発言
● 洋上風力で気になるのは、台風や、あるいは航空機が衝突するなどで倒壊したときに、風車を回収できるのかどうか。海の中に沈んでしまったらなかなか回収するのは難しいと思うが。
● 地震による津波とか、大型台風の場合に、風車そのものの物理的影響をどのように予測しているのか。
事業者の回答~
● 浮体式洋上風力が何かしら事故等で沈没した場合に回収できるかについては、まずこの浮体は船として認証を進めていき、日本海事協会の認証を取得して運用していくものになる。一般的には船同様、通常の利用に関しては問題ないことは確認されている。一方で、他の船舶がぶつかって、沈没、倒壊するようなことがあった場合には、基本的には、沈没した船同様に回収するということが前提になっていく。深い海域で回収できるようなエリアではないなど、そういった場合には断念しなければならないが、現地の海域は水深35メートルとか40メートルくらいの海域なので、技術的には回収が可能ではないかと思っている。
● 浮体式洋上風力発電は、ウインドファーム認証を取得することになっている。海域の風況、最大の波高、津波の想定など、過去の推計と今後の予測から、環境条件を想定した上で、それに耐え得る設計になっている。
<防災専門家によるコメント>
「事業者による説明は回答になっていません。どちらの質問に対しても「認証」について言及しているのみであり、具体的な説明がありません。」
「事業者は、係留装置、タワー、ナセル、ブレードなど、一般の船舶とはまったく異なる構造であるため、どのような沈没の形態が予想され、その予想される沈没形態に対して、どのような手法で回収するかを通常の船舶との違いを示し、具体的に説明できなければなりません。この回答からは、事業者は何も考えていない、準備していないということです。」
「2番目の質問も、委員は風車そのものが最悪の場合にどのような被害を受けるのかを質問しています。ところが、事業者の回答はやはり「認証」に終始している。つまり物理的影響を全く考えていない(予測すらしていない)ということです。これはあまりにも無謀で危険なことです。地震による海底地すべりによって係留機能を失ったり、転覆したりすることもあります。津波で制御を失った大型船との衝突もあります。通常の船舶と異なる被害形態はいくらでも想像できるはずです。」
「必ず事故は起こる、災害は起こることを前提として、どのような形態で事故や形態が起こり、そのときの崩壊モードを予想して、最悪の事態を防ぐ対策を講じなければなりません。最悪の事態を予想もしないで、対策ができるはずがありません。我が国では、超高層建築物であれ新幹線であれ、リスク分析に基づいて、最悪の事態を想定した設計を行っています。技術基準や認証制度はあって当たり前です。」
【配慮書審査会後の事業者への質問と回答】
<質問>
実効性ある鳥類対策を実施しなくても、計画は進めていくのか。
<事業者の回答>
何をもって実効性の有無を判断するかはそれぞれ(審査会や貴会)の見解によるところがあるかと存じますが、今後の手続きや審査会意見等を踏まえて事業者側では可能な限りの対策を実施することになります。その上で、貴会の視点で実効性が無いというご判断をされる(されなくてもですが)場合においては、運転開始後の事後調査において、継続的な風車周辺の鳥類の挙動観察、バードストライクの有無の把握に努め、その結果を踏まえ、必要に応じてさらに具体的な措置を検討し、継続して鳥類への影響に配慮した事業計画の策定・実施に努めていくことになろうかと存じます。(設置する風車全機に監視カメラを装着し、バードストライクが起きたらどこかの港から急行すれば死骸を回収できると思っているのだろうか?そんなことより、野鳥が風車に近づいたら自動停止です!)
【ブログ作成者から】
風力発電計画の環境影響評価審査会を傍聴した経験のある方は多くはないと思いますが(そもそも傍聴者枠が数人というのが少なすぎる)、これまで私が見て聞いた感想としては、審査会意見は一方通行の感があります。事業者の回答は極端に言えば、「検討します」「ご意見として聴いておきます」とはぐらかし、具体的な言及を避けることが多く、審査会委員もそれ以上追及しないという、中身が薄い審査会と言えます。この審査会意見を参考に「市長意見」(担当部署が作成)が出されるのですが、鳥類への影響を懸念する委員の意見と、事業者の回答を見れば、自ずと事業者に厳しい意見となるのは必然でしょう。しかし、協力関係にある北九州市としては、お決まりの当たり障りのない「市長意見」を出さざるを得ないと思ってることでしょう。環境審査会の意見が本当に「市長意見」に反映されているのか、委員のみなさんも見つめ直してはどうでしょうか。
野鳥にもやさしい風力発電であってほしい
We want wind power to be wild
birds friendly.
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