響灘洋上風力発電の影響を受ける野鳥たち③
「風力発電が野鳥に与える影響を考える会北九州」 Association to protect wild birds from wind power
危険が迫る野鳥たち
◆ ハチクマ・ハイタカ(タカ科)準絶滅危惧種 英名:Honey Buzzard ・Sparrow Hawk photo:ⒸM.ARAI ※写真上:ハチクマ 下:ハイタカ
◆ カンムリウミスズメ(ウミスズメ科)絶滅危惧種・国天然記念物・日本固有種 英名:Japanese Murrelet photo:Ⓒ(公財)日本野鳥の会
2014年、佐賀県唐津湾沖合の島で繁殖しているカンムリウミスズメ(家族が?)が、玄界灘→響灘→関門海峡→豊後水道→太平洋北上→青森県を通過し、ほぼ日本一周していることがジオロケータ調査でわかりました。カンムリウミスズメたちが、「さあ、これから日本一周するぞ!」という矢先に、響灘で25基の洋上風車建設工事が行われていることに、彼らはとまどうことでしょう。「いや、あんな小さな体で、しかもほとんど泳いで移動するのだから、広い海域のどこでも通って行くだろう」と、全長約26センチの小さな海鳥のことなど気にする素振りもない事業者の声が聞こえそうです。
ただ、近年、建設工事が行われている北側の白島で、カンムリウミスズメが繁殖している可能性があることが有識者の発言でわかりました。そうなると、カンムリウミスズメに対して建設工事が与える影響はもっと深刻なものになるかもしれません。空を飛ぶ鳥類に比べて風車への衝突などのリスクは低いかもしれませんが、建設工事の基礎を打ちこむ音や大きな作業船が行き来することが、カンムリウミスズメたちの生息を脅かすことになるかもしれません。国内で限られた離島で繁殖する小さな海鳥への一層の配慮が必要です。
◆ カラスバト(ハト科)絶滅危惧種・国天然記念物 英名:Japanese
Black Wood Pigeon photo:ⒸT.HAYASI
文字通りカラス色のハトですが、よく見るキジバトより大きく、紅紫色や緑色の光沢があります。離島のよく茂った森に棲んでいる留鳥です。2015年9月、福岡県から白島の鳥類調査を委託された日本野鳥の会北九州支部は、白島で約30羽のカラスバトを確認しました。白島(男島)は極めて小さな島で、しかも石油備蓄基地があります。この30羽すべてが留鳥として生息しているとは考えにくく、島嶼間を移動していると推測しました。響灘や玄界灘でカラスバトが棲んでいそうな島でも、数回その鳴き声を聞ける程度です。安住の地を求めて、島から島へと移動中に、今まで見たこともない洋上風車にとまどい、中には弾き飛ばされるカラスバトがいるかもしれません。識者もカラスバトの移動を認めていますが、事業者は島に棲む留鳥ということで、お決まりの「影響は小さい」と、根拠の薄い見解を述べるのみです。希少種に対しての配慮は全くないようです。
◆ ハシブトガラス・ハシボソガラス(カラス科) 英名:Jungle
Crow ・Carrion Crow photo:日本野鳥の会北九州支部(北九州市若松区響灘沿岸の風車下で発見した死骸。風車に接触し落鳥と推定)
市街地の中でたくましく生きるカラス。ごみを散乱させ、動物の死骸に群がり、子育て中には人にも攻撃するなど、嫌われ者の汚名を着せられています。そんなカラスですが、自然界ではそれなりの役割を果しているようです。動物の死骸を片付けてくれることや、ある種が増えすぎると、生態系のバランスが崩れることがありますが、それをコントロールする役割を果しているとも言われています。ただ、見た目や鳴き声が人に嫌われる理由でもあるでしょう。
鳥類の中では最も知能が高いと言われるカラスも、危険な風車への危機感は薄いのでしょうか、風力発電の犠牲になっており、その数はタカ類、カモメ類に次いでの数となっています。鳥類の長い歴史の中で、ここ30年ほどに出現した巨大な羽根が回る風車への危機意識は未だないようです。知能の高いカラスでさえそうですから、他の鳥類はなおさらでしょう。
普通種で、しかも嫌われ者で、どこにでもいるからといって、カラスの被害を無視することがあってはなりません。それは、希少な野鳥も風力発電の被害に遭う警告であり、生物多様性の警告でもあるからです。風車の下に1羽のカラスの死骸が見つかれば、その他多くの野鳥たちが被害に遭っているというサインです。
◆ ツグミ、ヒヨドリなどの小型鳥類 Thrushes ,brown-eared bulbul . etc. photo:Y.MORIMOTO
関門海峡から響灘には多くの小型鳥類が飛翔し、渡りのコースになっています。それは、風力発電事業者や、第2関門橋と呼ばれる「下関・北九州道路」のアセス調査でも明らかです。また環境省助成の調査においても、多種多様な小型鳥類が記録されています。留鳥のシジュウカラをはじめ、ツバメ類、アマツバメ類、セキレイ類、ヒタキ類、ムシクイ類、ホオジロ類、そしてシギ・チドリ類の群れも渡っています。(写真下:関門海峡を渡るヒヨドリの群れ)
身体が小さくて、敏しょうな小鳥であっても、巨大な風車の羽根に数羽単位で、時には大きな群れがはじき飛ばされることでしょう。夜間渡る小鳥類も多いことから、その発見は陸上でも困難であり、海上では全く発見されない可能性が高いと言えます。ヨーロッパでのヘリコプターを使った死骸探索で、多くのツグミ類の死骸が海上で発見されたことからも、事業者はもちろんのこと、誘致した自治体や県、国が積極的に被害状況を把握しなければなりません。その前に、実効性ある対策実施が必要であることは言うまでもありません。
今国内では、環境アセス調査のデータを改ざんしたり、極めて不適切な調査報告が問題になっています。事業者は、風車が建設されることによって、鳥類などに影響が及ぶことは、努めて報告しないというスタンスでしょう。これが開発による自然環境(野生生物)への影響を軽減するという、現在の事業者の環境アセスなのです。これを容認している行政と環境審査会の責任はもちろんのこと、それを許してしまっている保護団体(決して一枚岩ではない)にも責任の一端があると思います。
天然記念物や絶滅危惧種の野鳥が風車にはねられ、叩き落とされても、法律上は責任も罰則も対策を講じる必要もないとのことですが、回転する風車の羽根に野鳥は必ず衝突することがわかっているのですから、実効性ある対策を講じない事業者の過失責任は問われてしかるべきです。ヨーロッパのように、罰則を設けるべきです。もう猶予はありません。早く法令化、条例化して、事業者に実効性ある対策実施を義務付けしましょう!
心ある国会議員さん、自治体の議員さん、ご支援ください。
野鳥にもやさしい風力発電であってほしい
We want wind power to be wild
birds friendly.
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